小松田雅晃さん

新しい薬を創って多くの人の命を救える可能性に魅力を感じて化学の道を選びました。

小松田雅晃(こまつだ まさあき)さん 先進理工学研究科 応用化学専攻 山口潤一郎研究室 博士後期課程3年 私立山手学院高等学校(神奈川県)出身

 

 

Q1.化学の道を選んだ理由は?

高校生の時から、将来、人の役に立ちたい、人を救うような仕事がしたいと考えていました。最初は医師の道も考えましたが、創薬の道を志すようになりました。もちろん目の前の一人の命を救うことも大事な仕事ですが、新しい薬を一つ開発することができたら、何百万人、何千万人、場合によっては何億人という人の命を一気に救うことができるかもしれないからです。そして、新しい薬を創るためには、化学の力が必要だと知ったので化学の道を選びました。

 

Q2.早稲田大学大学院応用化学専攻の博士後期課程に進学を決めた理由は?

高校の先生や両親から、専門的なことをやりたいのであれば、博士後期課程に行った方がいいというアドバイスをもらっていて、自分も魅力を感じていたので、高校生の時から博士後期課程に進むつもりでした。修士課程に進学する段階で他大学への進学も検討しましたが、総合的に判断して、そのまま早稲田大学に残って博士課程に進むのが最善だと判断しました。

その理由は、素晴らしい研究環境が整っていることです。応用化学には各分野のトップクラスの先生が揃っていて、施設や設備も年々新しくなっています。また、大きな研究プロジェクトや企業との共同研究も数多く行われています。奨学金などの経済的な支援も、私立大学の中でも非常に充実しています。私自身もいくつかの奨学金をいただきました。

 

Q3.研究テーマを教えてください

有機化合物の新しい合成方法を研究し、分子を自在に設計・構築する「有機合成化学」という分野になります。私が修士・博士と継続してやっているのが「分子をぶっ壊す」研究です。
もう少し詳しくいうと、一般的に安定な分子として知られるベンゼン環などの「芳香族化合物」を壊して、より複雑な形の分子を合成する反応を開発しています。芳香族化合物は安価で豊富に存在するので、安定な芳香族化合物を敢えて壊すことで、医農薬品などに見られる複雑な構造の分子をより効率的に合成することができます。この研究の目標は、これまで合成困難だった分子が合成できるようになることと、既に合成されている芳香族化合物を壊して新たな化合物へと導くことです。たとえば、製薬会社では薬になる可能性のある候補化合物をたくさん合成していますが、その中で実際に薬として世の中に出るのはほんの一握りの化合物です。それ以外のそのままでは何の役にも立たない化合物に対して、分子の構造を壊すような反応を起こすことで、全く機能がなかった化合物に新たな活躍の場を与えることができます。化合物の可能性を一気に引き出すような多様性を与えることで、それが将来的に医薬品になったり、有用な材料になったりする可能性が生まれます。

 

Q4.高校生の時はどのように過ごしていましたか?

一番好きな科目は化学でした。自然界での現象から自分の身体の中の現象まであらゆることが化学で説明できる、ということに惹かれました。特に、有機化学はパズルのように分子を組み立てる点や身の回りの様々なものに使われている点に魅力を感じていました。ただ、一番得意だったのは英語です。出身高校が国際交流や世界で活躍できる人材の育成に非常に力を入れていたため、英語教育が充実していました。学校のプログラムでオーストラリアやアメリカに行く機会もありました。これは今でも研究室内でのミーティングやプレゼンの資料作成や海外の先生との交流において活きています。勉強以外のことでいうと、サッカー部に所属して高校三年生の夏まではずっと部活をやっていました。この時の体力や精神力は研究に役立っているのかもしれません。

 

Q5.研究で今いちばんやりがいを感じている点は?

研究テーマでも触れたように安定しているものを壊すのは実は難しく、反応が進行しないなどうまくいかないことばかりです。それでも新しい反応が進行したときは、すごく嬉しく興奮します。目の前で起きている新しい現象や反応を世界で最初に自分が見ることができるというのは、一番やりがいを感じます。

高校生や学部生では、教科書に書いてあることを勉強して、それを自分の中で消化していくわけです。それはもちろん大事なことですが、「研究」というのは、これまで学んできたことを武器にして、さらに新しい発想を生み出すことで進んでいきます。自分たちもまだ見たことがない現象、世界で誰も知らない反応や化合物を創ることに挑戦していくというのはとてもワクワクします。

Q6.研究室生活で心に残っているエピソードを教えてください

博士課程2年の夏に3ヶ月間、中国の研究室に留学をしたことです。自分がやっている有機合成化学にしても、ITの分野にしても、中国はものすごく勢いで台頭しています。彼らがどういったモチベーションで、どういう風に研究しているのか、何が今の中国の勢いに繋がっているのかを見たいと思い留学先に選びました。そして、留学の1年前に中国で開催された国際学会に参加し、ポスター発表を自分と同じ分野のトップランナーの教授に聞いてもらう機会があり、その時の出会いがきっかけでした。留学先を探していると話したら「ぜひ、うちにおいでよ」と言っていただいて、そこから有機合成化学では中国でトップの研究室への留学が実現しました。留学先として自分行きたい場所に必ずしもそこに行けるわけではないので、非常に幸運でした。

余談ですが、日本からすごい子が来るという話が一人歩きしていて、留学当初からプレッシャーがありました。自分自身も3ヶ月しかないので勿体無いと思い日曜日も研究室に籠って研究していました。それを見た教授が、日本から短期留学で来ている学生がこんなに頑張っているのだから見習いなさいと自分の学生を怒ったらしく、翌週から同じ研究室のメンバーが、日曜日に自分を外に連れ出そうと誘ってくるようになったのは面白かったです。

有機合成は長らく日本のお家芸と言われていて、中国人も「日本人はすごいぞ」と考えていることがわかりました。日中両方での研究を体験して、お互いに、「向こうは頑張っている」と刺激し合い、切磋琢磨し合っている関係は素晴らしいと思いました。また、研究環境も素晴らしく研究に投じる資金の量が違うなと感じました。余計なところには時間はかけずに効率的に働く、これが高い研究水準を生み出す一因だろうと思います。

Q7.将来の夢・進路は?

高校生からの夢である、病気の人を救ったり、一人でも多くの人々の健康に貢献したりできるような薬、治療法を創りたいです。幸運にも、来春から製薬会社の研究職に就くことが決まっています。まさに今のところは、自分が思い描いて、やりたかった道に進めていると思います。

創薬は、何万種類もの候補化合物の中から、非常に低い確率で製品として世の中に出るので、簡単ではありません。しかし、それをやる価値があるので、可能性が低くてもチャレンジしたいと思っています。現状の治療技術では治せない病気がまだまだあるので、これまで自分が培ってきた学問の分野を軸にして、色々な新しい知識や技術を取り入れてアプローチできたらと思っています。

Q8.受験生へのメッセージをお願いします

自分自身の経験からになりますが、好きなことを全力でやって欲しいと思います。必ずしもそれが自分の将来に直接繋がっていかないとしても、必ずどこかで役に立つことがあると思います。また、がんばったこと自体が自分の力になると思います。上手くいかないことや壁にぶつかることもあると思いますが、純粋に好きなことや楽しめることであればやり続けることができると思うので、そのまま全力でやって欲しいと思います。

知識としての化学だけでは終わらない。
使える化学を学んで、鍛え上げられた人材に。